冬城家の娘たち短編小説【ほこり】

「写真立て・・・?」
 つばさの向かいに座っているさきは倒れた物の正体がすぐに分かった。
つばさはその倒れた写真立てを直す為に手に取る。
 おおよそ30cm以上ある、木製の大きな長方形の写真立て、正確にはフォトフレームの表を見ると、幸せそうに笑う男女の写真がつばさの瞳に映る。
 その瞬間、脳裏にこの写真を撮影した時の光景がいきなりつばさの頭に流れ込んできた。

「つばさ、ドレス凄く似合ってる。
やっぱり、華やかでスタイル抜群な君はラインが見えるドレスが良く映えるね。
僕が選んだAラインのドレスにしなくて大正解だったよ。」
「・・・そう?」
 わくわく、と浮かれている白いタキシードを着ている男性とは対照的に、浮かない顔をして心、ここにあらずなドレスを着た女性。
 誰が見ても温度差のある二人は、半年前に婚約したカップルだ。
 二人で選んだウエディングドレスは、つばさの希望のマーメイドラインのドレス。
前撮り撮影場所は冬城家が経営する椿園、ピンク色の椿が咲き乱れる場所。
 この場所を選んだのもつばさで、仕事中のゆうひに見てもらえるかもしれないという淡い期待があっての事だ。
「ねぇ、ゆうひは?」
 少しイラつき気味に、椿園のスタッフにゆうひの居場所を聞く。
「高田さんですか?
売店で接客中だと思います。」
「・・・そう。」
 売店からはどう頑張ったってここは見えない、目的の一つ、いや、一番の目的を果たせず、つばさは一層機嫌を落とす。
「・・・。」
 そんな婚約者の様子をちゃんと見ていた男性、あきらはゆっくりつばさに近づき、ぎゅっ、と後ろから抱きしめる。
つばさは驚いて、抱きしめられたまま、後ろを振り向く。
「あっくん!びっくりした・・・。」
 若干不機嫌なつばさは、眉間に皺を寄せあつしを睨む、今は婚約者の相手をする気分になれないからだ。
 だが、あつしはつばさの冷たい態度に屈することなく、きつく抱きしめたまま彼女の柔らかい頬にキスをした。
「僕は君と出会えて幸せ者だよ。」
 耳元で、優しそうな声色でつばさに囁く。
「出会えただけじゃなくて、結婚までしてくれるなんて。
僕は人生の幸運を全てここで使ってしまったかもしれない。」
 何も言葉を返してこないつばさを他所に、独り言のように口を動かす。
「ありがとう、つばさ。
僕のパートナーになってくれて。
これから沢山楽しい事して、沢山思い出作って、一緒に生きていこう。」
 あきらの言葉に答えるように、つばさは自分に回った手に自分の手を添える。
「冬城さん、加茂さん、準備できたんで撮影しますよ!」
「つばさ、行こう。」
 つばさを一度離し、エスコートする為に手を差し出す。
「うん。」
 先ほどの不機嫌が嘘のよう、あきらが大好きなこっちまで元気になる笑顔が彼女の顔に浮かんでいる。
「つばさ、髪が乱れているよ。」
「もー、おばあちゃん気にしすぎぃ。」
「そんなの当たり前だろう、可愛い末孫の晴れ姿よ?」
「このブーケ、お母さん張り切って自分で選んだんですって。」
 撮影前、最後の手直しは祖母のりつこが念入りに行い、ピンクと白の椿で作られたブーケをつばさの母が手渡す。
「さっ、撮りますよー!」
 椿の木を背景に、つばさがあきらに寄り添い、あきらがつばさの腰に手を回す。
「自惚れかもしれないけど、僕がこの世界で一番君の事を愛してるよ。」
「え~、どうだろ。
つばさモテるからさぁ。」
 軽くあきらの言葉をあしらう、いつもなら「意地悪しないでくれよぉ〜!」と困るのだが、今日は違った。
「これからしっかり分からせていくから、覚悟してて。」
「!」
 あつしの方に顔を向ければ、今までどんな男性からも向けられたことないくらい愛おしそうな表情を向けられていて、呼吸を忘れてしまいそうになる。
「ふふっ。」
 感じた事のない幸福感が、自分の中からドバドバと溢れてきて、笑いが止まらなくなる。
それがあきらにも移り、二人して身を寄せあいながら幸せそうに声を上げて笑う。

スポンサーリンク
ふゆしろあさひ(シナリオライター)ポートフォリオ